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  建築家のコラム
ふたりで家を
07-1 経験に勝るものなし
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●経験に勝るものなし
1999年8月〜
今回のクライマックスとも言える杉の羽目板貼は、お盆明けから始まった。
棟梁が計画の段階から材木屋に相談し、何度も足を運び、
見つけてくれた破格の吉野杉。
2〜3人の大工が板張りに専念していたが、朝8時から夕方6時までやっても、
一人あたり幅数mしか進まない。
外壁には当然のことながら窓や入隅、出隅があり、
現場で合うように 羽目板を加工し、確認、そして釘打ち。
それは1回の作業でぴたりといくものではなく、
何度も微調整をしながら納めていく、 根気のいる工程だ。
ハウスメーカーでは現在主流となっている大判のサイディングなら、
既に貼り上がっているだろう。
夏はまだ盛り、気温は毎日30℃を超えていた。
傍らでただ見ているだけでもくらくらしてくるこの暑さの中で、
大工さんの手によって少しずつ、
しかし確実に貼られていく ― その様子をみながら、
「贅沢」とは何だろうと私達は考えていた。
2週間後、羽目板貼はようやく終了。
ペンキを塗ってしまうのが惜しいくらい、杉の板目模様が美しかった。
計画当初は、予算上箱目地をつけるのは無理だとあきらめ半分であったが、
最終的に棟梁の 努力によって実現した「箱目地」の陰影が
更に板の美しさを引き立てていた。
9月6日朝、棟梁のびっくりしたような電話で起こされた。
電話の内容はペンキ屋が外壁の塗装を始めたが、
「ものすごい色」なので確認してほしい というものだった。
メーカーに依頼して現物の杉板のサンプルまで作ってもらい、
検討に検討を 重ねて決定した色なのに…??
現場に慌てて向かったが、近くなるほどに緊張感が押し寄せてきた。
だって「シルバーポプラ」は家の外観の9割を占める色なのだ。
一度塗ってしまった色は取り返しがきかない。
濃い色を重ねても下の色が微妙に影響してしまうし、
ましてより薄い色にはもう絶対に戻せない。
あんなに美しかった杉板なのに…。
庭側の南東の角から塗り始められていた杉板は、
昨日までとはすっかり異なっていた。
木の目もつぶれ、ピカピカと光るその様はまるでOP(オイルペンキ)だ。
サンプルと比較してみるが、全く別のもののようだ。
焦る気持ちを鎮めつつ、メーカーの仕様書に再度目を通してみる。
「木の持つ自然の風合いを損なわない」
「硬めの刷毛で少量を伸ばすように塗る」とある。
ペンキ屋も仕様書を確認の上塗ったが、サンプルとのあまりの違いのため
慌てたと言う。
手順通りやっている以上、国内でも実績のあるこのメーカー(ドイツ製)を
信用するしかない。
皆内心どきどきしながらも、世間話をしながら少し時間をおいて
変化を観察することになった。
「ツヤが消えてきましたね。」
その日の午後、朝一番に塗った部分に徐々に変化が表れてきた。
皆の顔色が安堵の表情に変った。
次回この塗料を使う時、お施主さんが最初のひと塗りにぎょっとしたら
「大丈夫ですよ、時間がたてばサンプル通りの色に落ち着きます。」
なんて私達は言っちゃうのだろう。
他からいくら耳で情報を得ていても、経験とは本当に大切なものだ。 |


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