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 『9坪の家フォーラム』 written by 萩原修&萩原百合


 008 「引っ越し」


百合さん 修さん フォーラム
モノと向き合う  
父が銀行員だったせいだろうか。
思い返すと、転勤で移動することが多かったように思う。
当時は、単身赴任なんて考えられなかったから、どこへ行くのも家族いっしょ。
大阪の出来島から始まり、保谷、九段そして広島と、
2年に1度の割合で居を移す私たち家族であった。
といっても、私には4歳くらいからの記憶しかないし、
その記憶というのもかなり曖昧。
切り取られたスナップ写真のように、動きのないものばかりだ。

世の中は、高度経済成長真っただ中。
父は朝早くから出かけ、夜中に帰宅というモーレツ社員。
身の回りのことは、すべて母に任せきりだった。
だから、転勤することになっても、荷物をまとめるとか、電気・ガス・水道などの
手続きなど引越しにともなう実質的な作業は、すべて母が担当していた。
幼い私はといえば、旅行気分で列車に乗れることが、唯一の楽しみだった。

引越しの回数が増えていくのに比例して、母は荷作りがうまくなっていった。
どうやら、本人もそれを自慢に思っていたらしい。
後に、私が東京でひとり暮らしを始めることになった時、
こちらが頼んでもないのに荷作り隊長よろしく、
やけにハッスルして荷をまとめていくのだった。

住まいを別に移そうとする時、
これまでの生活の中で使ってきたモノや飾っていたモノ、
記録や思い出として保管していたモノなどを今一度オモテに出し、
すべてのモノと向き合うことが余儀なくされる。
趣味に合わないからと、しまったままにしておいた引き出物。
食器棚に入っているのに、普段ほとんど出番のない皿やコップ。
クローゼットをのぞけば、出産前のスリムな体形そのままのスーツや
ワンピースが、貴重な空間を塞いでいる。

もはや、見て見ぬふりはできなかった。
スミレアオイハウスへの引越し、それは壮絶のひとこと。
これまでのように、一筋縄ではいかなかったのである。
段ボールに詰め込む前に、身の回りにあるモノひとつひとつを手にとり、
じろじろ眺める。
「持っていくべきか、いかざるべきか........」
いちいち自分に問いかける。
感情を押さえつつ、極めて冷静かつ厳粛に最終判断するという作業が
延々と続くのだった。

ともすると、モノの方から勝手に家に上がり込んでくる昨今。
引越しを終え、スミレアオイハウスに暮らすようになってからはなお一層のこと、
意識してモノと向き合う暮らしが展開されるのであった。

モノと向き合う



モノと向き合う


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