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実家には、玄関の格子戸を開けてすぐ左に、8畳ほどの座敷がある。
床の間があり、掛け軸がぶら下がるその部屋は、人が訪ねてきた時や、
祝いの席に使うことがほとんどで、普段使うことはめったにない。
使わないというより、むしろ、むやみに出入りしてはいけないような雰囲気が、
この部屋全体に漂っているような気がする。
父がまだ会社に勤務していた頃は、正月や盆になると、
かならず父の部下が何組かあいさつにやってきた。
そういう特別な時にこそ、座敷は威力を発揮するのだった。
父と母は、そろって玄関で客を迎える。
私はというと、奥の台所に引っ込んだまま。
「まぁ、上がってちょうだい」と客を座敷に招き入れる父の声を聞き、
やがて襖が閉まる音を耳にするのだった。
仲居さんのごとく、お茶とお菓子を盆にのせ、しずしずと廊下を歩くのは.....
もちろん、好奇心旺盛な私である。
そそーっと襖を開け、「いらっしゃいませ」とにこやかに言う。
ひとことふたこと言葉をかわすと、「どうぞ、ごゆっくり」と言い残し、
その場を離れる。
私の接客は、これで終わり。
それ以上深く、父の知人と交流することはなかった。
ところでスミレアオイハウスには、盆暮れ正月関係なく、
コンスタントに人がやってくる。
たくさん人が訪ねて来るだけで、「よくやるよ」と不思議がられ、
「見ず知らずの人もやってくる」と、ためらわずに言った日には、
「なにしてんだか」と、ますますあやしまれるのであった。
果たして、娘たちは、この現状をどう受け止めているのだろう。
「だって、家を見るのが目的でしょ。
わけわかんない小さな子じゃあるまいし。私たちだって、事情はわかるよー」
スミレが、あっさり言う。
「別に、お父さんの知り合いが来たって、私が知ってる人だったら普通に話すしね。
そこに集まってる人とか、話してる内容にもよるけど」
はぁ.....。そんなもんですか。
そう言われると、確かに、その場の雰囲気とか、
その時の気分・自分たちの都合によって、
娘たちの客との関わり方は、まったく違ったものになっている。
こちらが言いもしないのに、率先して紅茶をサービスしはじめることもあれば、
いつの間にか打ち合わせに加わり、意見していることもある。
あるいは、我関せずと、まったく輪の中に入ってこないことだって、もちろんある。
実は、ここだけの話、関心がないように振る舞っている時でも、
娘たちはバッチリお客さんを観察しているのだ。
そういう時は、えてして、お客さんが帰ってから、
思わぬ感想が飛び交うのであった。
おお、くわばらくわばら.....。
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